恋がはじまる日


 高校に入ったばかりの去年の春。私は部活動を決めあぐねていた。
 椿が陸上部に誘ってくれていたけれど、私はとりあえず色んな部活動を見てみたくて、毎日色んな部活の体験入部に顔を出していた。

 その一つがサッカー部だった。

 正直サッカーのことは全く分からなくて、テレビで少し見るくらいの知識だったのだけれど、体験入部に行った時、菅原先輩が丁寧にサッカーのことを教えてくれた。今まで知らなかったサッカーの面白い部分とか、詳しいルールとか、すごく楽しく教えてくれていたのを、今でもよく覚えている。

 とてもサッカーが好きな人なんだなぁ、と先輩を見て思った。

 この人が楽しくサッカーをできるように、支えてあげたいな、サポートできたらな。

 そう思って、サッカー部のマネージャーとして入部することに決めたのだった。私が入部を決めた時の先輩の嬉しそうな顔を見て、私も嬉しくなったっけ。

 それから先輩は私の憧れになった。先輩みたいに周りの人を自然と笑顔にできる優しさとか、気遣いとか、私もそんな素敵な人になりたいと思った。


「そういえば先輩、私になにかご用でしたか?」

「ああ、いや、特に用があったわけじゃないんだけれどね」

「?」

「佐藤さん、頑張りすぎてないかな、って。マネージャーの仕事、人一倍頑張っているから」

「え、いえいえ!まだまだ至らないところばかりで!」

 先輩、私のことを心配してわざわざ声を掛けてくれたのかな。相変わらず優しすぎる先輩だなぁ、としみじみ感動していると、菅原先輩はなぜかとても嬉しそうに笑う。

「佐藤さんは十分すぎるくらい頑張ってくれているよ、いつもすごく力になってる。本当にありがとう」


 面と向かってそんなことを言われて、ちょっと泣きそうになってしまった。褒められたくてやっているわけではないけれど、見てくれている人はいるんだなぁと胸の奥がじんわりと温かくなった。


「ありがとうございます!」


 今後も先輩達が楽しくサッカーをできるよう、頑張らねば!とより一層気合が入ったのだった。


「それじゃ、明日もよろしく、マネージャー」

「はい!」