「お前は覚えてないと思うけど、転入してくる前に会って、話したことがある。」
「え!?」
そんな前に会ったことがあっただろうか?私は首をひねる。
そういえば、いつだったか、「冬のこと、覚えてるか?」って聞かれたことがあった。
そんな私の様子を呆れたような、諦めたような表情で話続ける藤宮くん。
「編入試験の日、お前と会ったんだ。中庭で花に水やりしてただろ」
「へんにゅうしけん…」
その言葉を口の中で繰り返すと、とある寒い日のカフェテラスの映像が脳裏に思い出された。
「あ!遠くから編入試験受けに来た男子生徒に、試験会場まで案内したことある!え!あれ藤宮くん!?」
私は驚きのあまりぽかんと口を開けてしまった。
そうだ、カフェテラスで一緒におしゃべりしながら、試験時間を待っていたことがあった。でも、なんとなく記憶に残っている彼と藤宮くんは違うような。眼鏡をかけていた?
私があれ?と言いうような表情をしていたのだろう、藤宮くんはふっと笑うと、
「多分、その佐藤の記憶の中のやつで合ってる」
と言った。
「そ、そうだったんだ…」
当時の私、変なこと言ったりしたりしてませんように。
「佐藤はその頃からそそっかしかったな」
「ええ?」
「ま、そんなところも好きだけど」
「う」
さらっと好きだなんて言われてしまい、私はまた真っ赤になる。
藤宮くんは私の頭をぽんっと優しく撫でた。



