教室に入ってきた藤宮くんは、一瞬目を丸くした後、慌てたようにこちらにやってきた。


 そのまま鞄を持って教室を出て行ってしまうかと思い、私は急いで呼び止めようと口を開いた。


「藤宮く、…」


 しかし彼は私の手をつかむと、そのまま引っ張って行くように廊下へと出る。


 何が起きたのか分からない私は、なすすべなく手を引かれ、歩みを進める。


 え?え?どこに行くの?


 私は混乱しきった頭で、必死に呼び止める。


「ふ、藤宮くん!」


 彼はそこではっとしたように歩みを止めた。


 繋がれた手はそのままで、私には彼の背中しか見えない。握られた手はやけに冷たく感じた。


「藤宮くん、急にどうしたの?」


 繋がれた手に少しドキドキしながらも、私は彼の言葉を待った。


 藤宮くんがこんなにも慌てている姿を見たことがなかった。どこに行くつもりだったのだろうか。


 藤宮くんは振り返ると、私をまっすぐに見つめた。その瞳はなんだか苦しそうに見えた。


「…無理だった」


「え?」