恋がはじまる日



 気まずい一日をようやく終えた放課後。 


「さて、今日も部活頑張りますか!」


 今日あった色んな出来事はひとまず忘れて、部活動に頭を切り替える。意気込んで立ち上がると、前の席の椿も慌てて立ち上がった。

「俺も早く行かねーと!今日タイム測るんだった!」

と、まるで勉強道具が入っていなさそうな鞄を肩にかけた。


「陸上部も練習?」

「もうすぐ春の大会だからさー、サッカー部も大会近いだろ?」

「うん、こっちも来週大会」


 私はサッカー部に所属しており、マネージャーを担当している。選手達と一緒にマネージャーズも気合を入れていかねばならぬ時期だ。

 椿は小学生の頃から陸上部に所属していて、短距離走と走り高跳びが専門だ。大会でもなかなかいい成績を残しているみたい。


「お互い頑張ろうぜ」

「うん!」

「あ、美音、今日も一緒に帰ろ。同じくらいの時間に部活終わるだろうし。昇降口で待ってるから」


 この時期は大体どの部活動も六時に終わる。春と言っても暗くなると一人で帰るのはちょっと怖かったりもするので、私は快く頷いた。

「うん、わかった」

 その返事を聞いた椿は、嬉しそうに「じゃ、またあとで」と、元気に教室を出て行った。

 彼の後ろ姿を見送りながら、私も教科書を鞄に詰め込んで身支度を整える。


 ふと隣の席を見ると、藤宮くんはクラスの子達に囲まれ、質問攻めにされているようだった。転校生あるあるだね。

 みんなよく話し掛けようと思えるなぁ、と半ば感心してしまう。藤宮くん、性格結構きつそうだけど。

 ちらっと見ただけなのに、藤宮くんとちょうど目が合ってしまった。私は慌てて教室を飛び出し、部活動へと向かった。