恋がはじまる日

「えっ!いや!そんなことないよっ!?」

 ずばりその通りすぎて全く動揺が隠せなかった。でも、だって藤宮くんが歌っているところなんて、想像できないんだもん。

 いつも通り盛大なため息をつかれてしまった。


「まぁ行かないけど」

 またまた素っ気なく放たれた言葉に想像以上に大きな声が出る。


「えっ!行かないの!?」


 自分でも驚いたが、藤宮くんの方はもっと驚いたようで目を丸くしていた。


「あ、ごめん…」


 この後何か用事があるのかもしれないし、単にやっぱりカラオケに興味がないのかもしれない。そりゃあ来てくれたら嬉しいけれど、そんなこと素直に言えるわけもなくて…。うーん、どうも今日の私は少し可笑しい。私ってこんなだったっけ?

 すると藤宮くんがふっと笑ったような気がした。


「何?俺に来てほしいわけ?」

「え!!えっと…」


 まさにその通りなのだが、直接聞かれるとどう答えていいのか分からない。どうせ藤宮くんはいつものように私をからかっているだけなのだろうけど、今回ばかりは打ち上げに来てほしいと言いたい。でもなんて言ったらいい?藤宮くんとお話したいから一緒に行こうよ?いないと寂しい、とか?いや、普通にどれも恥ずかしすぎるよ!

 悶々と考えていても、いい言葉は見つからず。


 私がいつものように、むきになりながら返答してくると思っていたのか、藤宮くんは不思議そうに眉根を寄せていた。


 すると後ろからタイミングよく、助け船がやって来た。


「美音!お待たせ!って、また藤宮と一緒なの…」


 駆け寄ってきた椿は、藤宮くんを見るなり露骨に嫌そうな顔をした。