「その後、紗奈さんはお元気ですか?
怖い経験をすると、時間が少し経ってから心体にダメージを受けるケースがあるので心配していました。」

「今のところ、その様な感じ無いです。元気にしてますよ。
大学のコンペの提出も近いので、その事で忙しくしているせいかもしれませんが…。」
要も心配して、注意深く見守っているが今のところフラッシュバックも無いようでホッとしている。

「そうですか、良かったです。
このまま何も無いと良いですね。ストーカー被害に遭われた方は不眠症や対人恐怖症など心を病む事もあるので。」

「田中弁護士が早い段階で助けて頂いたお陰だと思います。本当にありがとうございます。」
要は深く頭を下げて田中に改めてお礼を言う。
「いえいえ、頭を上げて下さい。
ご存知の通り偶然では無かったので気にしないで下さい。
むしろもっとはやくに助けるべきだったと申し訳なく思っています。
依頼調査の対象だったので僕の存在がバレてしまって良いのかと、少しばかり躊躇してしまいました。」
申し訳なさそうな顔をして田中も頭を下げる。

「それでも、貴方が見ていてくれたから彼女は無事だったんです。」

コンコンコン

タイミング良くドアが開き竹内が顔を出す。

「コーヒーをお持ちしました。」
田中が軽く手を上げて礼を言う。

テーブルにコーヒーカップが並べられ、要も微笑みと共に頭を軽く下げる。

竹内はさっきからチラチラと北原を盗み見ては、この恐ろしく顔の整ったイケメンは誰だろうと気になっている。

「先生、調書を作成しますか?」
仕事の案件なのかも聞かされていない為、田中に確認をする。

「いや、プライベートな話しなので、君は今日はもう上がってくれていいよ。
お疲れ様。」
爽やかな笑顔で言われては帰るしか無いと、少し残念に思いながら頭を下げ部屋を後にした。

「あの、ストーカーについては詳しく分かりましたか?」

「ええ。こちらで調べた所、直ぐに身元は分かりました。たまに駅いる事もあるらしく、今は電車に乗るのを控えています。

大手会社の中間管理職で妻子もいるようなので、早く解決できると思います。
実は今週の金曜日に会う予定でいます。」

「良かった。示談で大丈夫そうですね。弁護士が出て行く幕は無さそうだ。」
笑いながらそう言って田中はコーヒーを一口飲む。

「実は、今回伺ったのは別の案件でお手伝い願いたいと思いまして。

こちらの方はご存じですか?」
そう言って、封筒から引き裂かれた台紙に貼られた写真を出す。