これまで何を言われても冗談めかしく交わしたり、少し嫌な感じを見せるだけだったり、笑っていたりするだけだった私だったが、これには黙っていられなかった。
 これまでに誰にも見せたことがないほど早口で、大きな声で話していた。
 頭は真っ白だったが、口が勝手に動いていた。
 私は最後に、
 「勘違いしないで」
 と言い捨てて、教室へ戻った。
 心が痛かった。
 まるでナイフが刺さったような、しかも、刺さって貫通したまま抜けないような、そんな気持ちになった。
 泣くな、泣くな、彼らの前で、人前で、絶対に涙を見せるな。
 私はそう自分に言い聞かせて、上を向きながら移動教室へ向かった。
 あの場で涙を見せるという方法もあったが、私は涙に訴えたくなかった。
 大勢が見ている中で、プライドが許さなかった。
 次の授業で、私はノートに板書を取りながら泣いた。
 黒板の字も、ノートの字も(にじ)んでよく見えなかった。
 後になって考えてみれば、あんな剣幕を見せてしまっては恐れられるのも無理がないと思ってしまう。
 普段怒りを見せなかったせいで、余計に印象が強く残ってしまったかもしれない。
 しかし、この行動が原因で、後々起こった説明のつかなかった状況に説明がつくことになる。