もし本人がこの場にいないのであればまた別の日にチョコレートを渡そうと思ったが、この目で本人がいることを確認してしまった以上、渡してしまいたい。
 私は半ば強行的にチョコレートを渡すことにした。
 黒板の方に行ったはずの良太は、教卓の下にいる。
 それを確認した私も、小さな紙袋を持って教卓に潜り込んだ。
 まるで迷子の子供に話しかけるような口調で話す。
 「あのね、上原くん。これ、どうぞ」
 良太は紙袋を受け取ってくれた。
 「ありがとうございます!!」
 元気の良すぎる声が教卓の中に響き、外からは拍手のような歓声あるいは歌のような、いつもの盛り上がりが聞こえてくる。
 私は思いの外緊張していなかったが、良太にチョコを渡せたこと、そして彼が喜んでくれたことが何より嬉しかった。