それから、理玖はことあるごとに工房に篭って何かを作っているようだった。
理玖曰く

「変なことを考えないために!」

とのこと。
理玖らしいな……と思いながら、私も毎日、ソファに腰掛けて、買ってきたばかりの赤ちゃん用の靴下やスタイの作り方の本を開いていた。
妊娠6ヶ月目に入り、お腹がはっきり目立ってきた。
それを目にする度に、この子のために母親として何かしてあげたいと言う欲が日に日に増していった。
だから、理玖が物を作っている間、私も手芸に挑戦することにしたのだ。

針と糸を使うのは、高校の家庭科以来。
でも、物を作るという根幹は変わらないので、時間を忘れて没頭していた。
今日は靴下の刺繍に挑戦していた。
小さくて可愛いお星様を散りばめる作業は、とても楽しかった。

「よし、完成……」

私が、満足げに自分が作った靴下を眺めている時だった。

「妬けるね」
「り、理玖!?」

理玖の手が背後から伸びて、私の指先をぱくりと口に含んでくる。

「やめ……んんっ……」

もう、繋がり合う行為は
本当は安定期になったタイミングで、条件付きで再開しても良いとは言われていたけれど、理玖が私の中に入るのを怖がった。

「俺のせいで、2人が傷つくのは耐えられない」

とのことだった。
その代わり、愛せるところを目一杯愛したいということで、理玖は昼夜問わず私の手に触れるようになった。
おかげで私の手はむくみ知らず。
定期検診に行く度に

「手が本当に綺麗ですね、どんな手入れをしているんですか?」

とプレママ仲間やお医者さんにもしきりに聞かれるほどだった。
さすがに真実は言えないので、理玖が使ってるハンドクリームのメーカーだけを教えるにとどめた。


一通り触れて、舐めて満足したのか、理玖は優しく私の指を離す。
それで終わりかと思ったら、再び私の手を取った。

「左の小指、出して」
「どうしたの?」
「やっとできたから」

何を、と聞く必要はなかった。
理玖は前から予告していたのだ。
妊娠した時に絶対贈りたいものがあると。