十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

「石は、何入れる?」

理玖はそう言うと、小さなカタログのような冊子を見せてきた。
中には、この店で作る時に選べる宝石の名前と説明、金額、それから宝石言葉が記載されていた。
宝石も大好きだった、かつての私が、どんどん内側から顔を出してくる。

「予算もあるだろうから、ここから自分で好きなものを選べよ」

一瞬だけ目を通してから、私は冊子を閉じた。

「どうした?」

私は……知りたかった。

「理玖が選んで」
「……いいのか?」

理玖の問いかけには、きっと2つの意味がある。
1つは予算。指輪の値段は、使う素材、宝石の種類と数で大きく差が出てくるから。
そしてもう1つは……。

「昔の私だったなら、こんな宝石が良いとかこだわりもあったと思うけど……」

私は、ずっと私の小指を触り続けていた理玖の手に、右手を添えた。

「理玖が、私に1番合うと思う宝石を、選んで欲しい」

この天才が、私のために才能を発揮するとしたらどんな宝石を選んでくれるのだろう?
理玖という、かつて死にたくなる程愛した男が、私に身につけさせたいと考える宝石は何だろう?
その2つの気持ちが、私の中で同居していた。

「分かった」

理玖は、冊子のページを丁寧にめくっていく。
目を伏せた時にできたまつ毛の影は、理玖のまつ毛がいかに長いかを証明した。
そうやって、2枚目、3枚目をめくって、理玖の手が止まる。
その瞬間、私の息が、止まった。