十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

私の小指が心なしか細くなったところで、理玖はまた、スケッチブックを開いた。
鉛筆を持つ手を動かすと、スケッチブックに私の左手が現れた。黒子や爪の形までしっかり再現されていた。

「デザインをするために、いくつか聞きたいことがあるけど……いいか?」
「うん。……何?」
「素材の希望はあるか?」

それは、指輪の印象を大きく左右する体。
月のように黄金に輝くイエローゴールドか。
桜の花のようにしっとり輝くピンクゴールドか。
それとも、昼間の太陽のように眩しいプラチナか。
どれを選んでも、きっと理玖なら軽々と扱ってしまうのだろう。

中野さんとの結婚指輪は、プラチナを選んだ。
シンプルで、誰がつけても大丈夫なデザイン。
私らしさの欠片はないけれど、決して失敗がない、無難なものを選んだ。

今、私はオーダーメイドしようとしているピンキーリングは、その左横にある小指につけるもの。
ピンキーリングを見れば、結婚指輪も視界に入る。
チグハグなデザインは不協和音を呼ぶ。
だから本来であれば、先に決まった結婚指輪に合わせた素材……つまり、プラチナにするべきだろう。
結婚指輪と同じように、ずっとつけ続けたいと思ったのだから。
けれど……。

「理玖は、私に合う素材はどれだろ思う?」
「プラチナ」

即答された。

「お前には、プラチナがいい」
「その根拠は?」
「雑に扱っても、大丈夫な素材だから」

その言葉の中に、一体どれだけの意味が込められているのだろう。
理玖も、思ってくれているのだろうか。
どんな時でもずっと指輪をつけていて欲しいと。
聞きたかった。
けど、聞くべきじゃないと思った。