十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

理玖が、私の前でスケッチブックを広げて、鉛筆を持っている。
これも、懐かしい場面。
私たちは、よく2人でお互いをスケッチし合っていた。それも、身体を激しく重なった後。
あの熱くて甘い事後の記憶が、彼のスケッチする姿で蘇る。
ずっと濡れていなかった女の私が、顔を出し始めたことに私は内心動揺していた。
理玖の鉛筆を持つ手に、私を見る目に、欲情をしていると言うことだから。

「デザインをするために、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「うん」
「どうして、ピンキーリングなんだ?」
「……言わなきゃダメ?」
「選んだ理由が、大事なんだ」
「なんとなく……いいなって……思っただけ……」

それで誤魔化されてくれないだろうか。
アクセサリーなんて、インスピレーションで選ぶ人も多いから。

「違うだろ」
「え?」
「あれだけアクセサリーに……それも指輪に夢中になってたお前が、何となくで選ぶはずないだろう」

理玖のその言葉は、もう忘れたいと願ったかつての夢までも、掘り起こしてしまう。
やめて。
これ以上、深掘りをされたら、私はどうすればいいの。
もう私には、過去に戻ることなんて、許されないと言うのに。

「……人は、変わるよ。もう、あの時ほどアクセサリーなんて好きじゃないよ」
「ダウト」
「……え?」

理玖は、私の目を指差しながら、少し悪い笑みを浮かべた。