十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

「お前、結婚指輪にこだわってたろ」
「それは……」

理玖は、夢を諦める前の私を知っている。
花嫁の左薬指にふさわしい、キラキラと輝く星のような指輪のデザインには、しっかりとしたコンセプトストーリーが必要だ。
花嫁になる予定もない癖に、ウエディングの雑誌を買い、指輪のページを理玖に見せながら何度も熱く語っていた。

「1ヶ月やそこらで作らなきゃいけない指輪に、お前が納得するのかと思った」
「……そっちの心配か」
「……何か言った?」
「ううん、なんでもない」

誰かに今すぐ、自分の頭を思いっきり粘土で殴って欲しい。
自分の思い込みが、急に恥ずかしくなった。

「店は、決まったから」
「そうか」
「うん……」

それから、私はコーヒーを口にした。
ミルクでまろやかにした、苦味。
理玖の前でしか、口にしたことはない、特別な味だった。
大人びた理玖に、こんなことで近づけると本気で思っていたのだ。あの頃。
それくらい、真剣に理玖の横にいるために努力して努力して、そして……勝手に潰れた。
彼の才能は、私が目指していた星なんかよりもずっと眩しくて、何度も目が眩んだ。