十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

「俺たち……大学に受かったら結婚しよう」
「何言って」
「そうすれば、大学でも家でも、ずっと一緒にいられるだろう?」
「そうかもしれないけど……」

汗と、彼が愛した証と、絵の具まみれのベッドの上でのプロポーズ。
正直言えば、プロポーズ自体はもっと先だと思っていたし、こんななし崩しな形で言われるとは思わなかった。
驚きと戸惑いが、嬉しさよりも勝ってしまった。

「それでさ、一緒に店を開くんだ」
「お店?」
「そう、俺たち2人のだ」

そう言うと、理玖は私の頭をよしよしと撫でてきた。
理玖に触れられると、自分も芸術品に生まれ変われるのではないかと、いつも私は錯覚させられる。

「お前が好きな空の色……ほら……いつのって、言ってたっけ」
「……春の空の事?」

正確に言えば、冬の雪空の合間に見える、温かな日の黄色が混じった、ミルキーな空の色のことだ。
私はそれを、春の空と呼んでいた。

「そうだ。春の空を、部屋にいてもずっと感じられる空間にするんだ。それから……」

理玖は急に飛び上がると、すぐにスケッチブックに線を描いた。

「木の香りがする、リラックスできる空間にしよう。俺たちが作る商品だけじゃなく、絵や彫刻も並べるんだ。お前の指輪は俺たちの店で1番目立つ場所に飾ろう。工房も見えるところに作ろう。俺たちは、接客をしながらずっと作り続けるんだ」

子供が夢を語るように、目をキラキラさせている理玖の目にこそ、まさに星が宿っている程綺麗だと思った。
でも私の心には、燻ったものが宿っていた。