「探したよ。ここにいたんだ」
「すみません」
「いいよ、それより……ここもアクセサリーショップかな?」
「あ……」

そうです、と言おうとした時だった。

「東雲さんの彼氏?」

理玖が、聞いてきた。
私を、美空ではなく、東雲と苗字で呼んできた。

「知り合い?」
「……高校の時の……クラスメイトです…………」
「へえ、そうなんだ」

ちょっとした嘘をついた私の表情の変化など、気にならないであろう中野さんは、私ではなく、室内を物色するかのように見渡してから

「いいお店だ、気に入った」

と言った。

「ありがとうございます」
「ここでは、結婚指輪は作ってくれるかな」
「えっ!?」

今までは、自分から「ここにしよう」とは言わなかった。
どちらかと言うと、「ここにした方がいい?」と私にお伺いを立ててばかり。
そんな中野さんが初めて自分から意思表示をした。
余程、理玖の店が気に入ったのだろう。
愛はないけど、それくらいは分かる。
長年の上司と部下という関係性は、相手の本質を知る十分な時間と機会を与えられるものだから。

「承っております」
「ちなみに、期限なんだが……1ヶ月でできるものかい?」
「申し訳ございません。当店では全てオーダーメイドで作成をするので、3ヶ月は必要としております」
「そうか、じゃあここでは難しそうだね。いいお店だったけど、残念だ」

中野さんは心底残念がったが、私はほっとした。
理玖が、私と中野さんの結婚指輪を作らないという事実に。

「じゃあ……そろそろ行こうか」
「え?」
「早く店、見つけないとね。それとも、もう少しここで見ていきたい?」
「…………いえ、大丈夫です」
「そう?」

中野さんは、もう1度理玖の方を見た。
私は、理玖の顔を見られない。

「また、別の機会に来ようかな。その時は相談に乗ってくれ」
「かしこまりました。お待ちしております」

どんな表情をしていたのか、まるで読み取れない理玖の声に、私は必死で泣きそうになるのを抑えながら、店の外に出た。
たった数秒の出来事が、とても長く感じられた。