あれから私は、髪をひとつに結ばなくなった。
先輩の部活の応援にも行かなくなったし、購買部のクリームパンも買いに行かなくなった。
先輩に会ってしまうと、きっと好きって気持ちが、どうしようもなく溢れ出してしまうから。
そんな中で迎えた、7月の先輩の誕生日当日。
梅雨が明けたこの日は、夏樹先輩の誕生日を祝うかのような雲ひとつない快晴だった。
「暑っ」
ただ歩いているだけでも、汗が額に滲んでくる。
先日、私が先輩のために買ったプレゼントは、放課後になっても渡せなかった。
いや、渡さなかったと言ったほうが正しいのかもしれない。
私は、サブバッグに入った先輩へのプレゼントを見つめる。
前に一度、先輩にクリームパンを奢ってもらったお礼も兼ねていたのに。これじゃあ、意味ないな。
だけど、先輩には彼女がいるんだから。
私なんかがプレゼントを渡しても、きっと先輩を困らせてしまうだけ。
だからきっと、これで良かったんだーー。
そう自分に何度も言い聞かせ、この日の授業が終わった私は家に帰るため、下駄箱で上靴からローファーに履き替える。
校舎から外に出た途端、照りつける強い陽射しに、私が思わず目をつむったそのとき。
「ねぇ、花梨ちゃん、ちょっと良い?」



