「ま、待って、仁なの…?あの時、死んだんじゃ、」


私の斜め前から、仁さんが息絶えるのを目撃したはずの大也の狼狽えた声が聞こえる。


「ああ、死んでないよ」


仁さんは明るい声をあげ、ぺろりと舌を出してみせた。


「あれはね、ケチャップで作った血糊だよ。1回こういう演出してみたかったんだけど、見事に騙されてて…ちょっと可哀想だったけど死んだふりまでしちゃった!」


アカデミー賞主演男優賞受賞級の演技だったよあれは!、と、ナルシストは1人でけたたましい笑い声をあげ、ごめんね、と付け加えた。


「まさかこんなに大事になるなんて思ってなくてさ。しかも、湊とこの人の間で何か大変な事になってるし?完全に出てくるタイミングを失っちゃったわけ」


ねっ、最悪でしょ?


私達をぐるりと見回した彼は、わざとらしくため息をついてみせた。



(仁さん、生きてたっ……!)


いつもなら笑いながら突っ込むくらいの余裕があるけれど、今はそれ以上に安堵感の方が大きい。



良かった、仁さんが生きてた。


これで、皆一緒に帰れる。


皆で、一緒に……


「っ……、!」


また目頭が熱くなったかと思うと、我先にと温かな液体が頬を濡らしていく。


良かった、本当に良かった。


もう、家族を失うのは懲り懲りだ。