「あの、匡さん」
ふたりの寝室でネクタイを締めているところに話しかける。
彼は手は止めず、視線もこちらに向けることなく「なんだ」と返した。
毎朝のことながら、シュルシュルと器用にネクタイを締める指先がとても色っぽい。
レースのカーテン越しに柔らかい朝の陽ざしを受けた匡さんは、いつにも増して綺麗に見える。
向かって右眉の上でわけられた髪は、右側はそのまま後ろに流れ、左側は眉のライン上で揺れていて、これ以上ないほど匡さんに似合っている。
知的な眉もアーモンド形をした目もとても魅力的で、見惚れるなと言われる方が無理な話だ。
通った鼻筋に、整った形の唇。男性らしく出ている喉仏と首のラインが色気を溢れさせているので誘惑されるまま眺めていたけれど、「なんだ」ともう一度返され、慌てて口を開く。
「あの、何度か言いましたが、日中、身の回りのことはすべて滝さんたちがしてくれますし、かなり……というか、時間が丸々余るんです。私もただ家でじっとしているのは落ち着かないので、できれば仕事を探したいと……」
「ダメだ」
「でも、せっかく暇な人間がいるなら働かせないのは損だと思うんです。たとえばこれが会社だとして、経営する側の匡さんも、そんな何もしない社員は不要だと判断しますよね? 私、このままだと匡さんにとっても桧山家にとってもただのお荷物状態ですし……」
「ダメだ」



