背中をひんやりとしたものが伝い、体が委縮して声をのむ。
それは麻里奈ちゃんも同じだったようで、それまでは何を言っても三倍くらいの量で言い返していたのに、今は悔しそうな顔をして押し黙っていた。
おもむろに匡さんがこちらに近付いてきたため、自己紹介をミスした手前何か言われるかとひやひやしながら背筋を伸ばしていると、彼は私の膝裏に片腕をあて、そのまま横抱きにして持ち上げた。
予想もしなかった衝撃に「わっ」と声を出しながらも、落ちないように必死に匡さんの首に抱き着く。
数秒経ち、我に返った後ベッドの上でもないのに抱き着いてしまった自分が恥ずかしくなり腕を緩めると、それとは逆に匡さんが私を抱える腕に力を入れた。
「心配しなくても離すつもりはない」
私のあまりの慌てようがおかしかったのか、わずかに笑みを含んだ声で告げられる。
こっそりと見上げた先にあったのが、ここ六年ほどは見たことのなかった優しい笑みだったので、そこからは匡さんの腕の中で縮こまることしかできなくなってしまった。
私を抱きかかえたまま玄関に向かう匡さんの後ろから「絶対に認めないから!」という麻里奈ちゃんの叫び声が聞こえていた。



