「は? すごい煽ってくるんですけど。わざわざ名字言い間違えて自己紹介とか、完全に喧嘩売ってるよね。なに? 今までは木下だったけど結婚して桧山になりましたーってわざわざ言ってるわけ?! 結婚しましたっていうマウントとか本気でうざい。匡くん、この女超性格悪いよ。離婚した方がいいと思う」
すごいことを言い出すなとびっくりしながらも、言い間違えたせいでマウントをとったように捉えられてしまったと焦る。
披露宴では匡さんが紹介してくれたので私は笑顔で〝はじめまして〟と言っているだけでよかった。
それから一カ月ちょっと、外で自己紹介する機会もなかったため、未だ桧山の姓を名乗るのに慣れていないだけで、決して火に油を注ごうとしたつもりはない。
麻里奈ちゃんは匡さんの従妹だし関係をこじらせるつもりもない。
だから、誤解を解くために口を開いたけれど、それよりも先に匡さんのうんざりしたようなため息が聞こえてきて肩が跳ねた。
視線を向けると、彼は眉を寄せ不機嫌そうに麻里奈ちゃんを見ていた。
「おまえの評価はどうでもいい。それより、話が済んだならもう帰れ。感情のままキンキンした声で怒鳴られても不愉快だ。あと、今後うちにくる際には前日までに連絡しろ。こちらにも都合はある」
落ち着いた声だったけれど、匡さんの放つオーラには冷たい怒りが含まれているのがわかった。



