『これ、匡さんが忘れて行かれたものです。とても大事にされているようでしたのでお持ちしました。美織さんから渡していただけますか?』
『もちろん、奥様である美織さんもご存じですよね』
思い出せって、言いたかったんだ。
ずっと見張らせるほど私を大事にしてくれている匡さんの気持ちを、私がちっとも信じないから。
それを近くで見て気付いていた沢井さんは、匡さんのことが見ていられなくなって家まで来たのかもしれない。
「どうして……」
深い息とともに、声が漏れた。
自分でも思ってもみないほど悲痛さが滲んでしまった声を取り消すわけでもなく、匡さんを見つめる。
どうしても下がってしまう眉尻をそのままにじっと見つめていると、匡さんが申し訳なさそうに顔をしかめた。
「わかってるんだ。あの頃とはもう違う。美織はもう大人だし、何か問題が生じても自力でなんとでもできる。でも……どうしても、あのときのおまえの声も表情も、何もかもが、一日たりとも頭から離れない。もし見過ごし気付くのが遅れて、最悪美織を失っていたかもしれないと思うと……今でも怖いんだ」
私よりももっと苦しそうな声で言った匡さんに目を見開く。
「たとえ嫌われたとしても、美織が無事ならそれでいいと思った。どうやってでも守りたかったんだ。あの叔父の一件は俺にとっても強いトラウマになっている。だから……悪かった」



