赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました



私は、恋愛対象とすら見られていなかった。だから、拒否されなかっただけなのだ。

――このままじゃダメだ。

匡さんが認めてくれるような大人の女性にならないと、ずっと一緒になんていられない。

高校二年の六月。梅雨時期。
透明なビニール傘の柄を握りしめながら強く決意したのを今でも覚えている。


「だからまず、子ども扱いされないようにするためには距離感を計り直す必要があると思って、敬語を使うようにしたの。呼び方も〝くん〟じゃなくて〝さん〟にした。好きだってポンポン気持ちを伝えるのもその日からやめた。匡さんに私だってちゃんとした女性なんだって意識してほしかったから」

庭先にしゃがみ込んで言った私に、庭師の相葉くんは驚いた顔をした。

「よくそこからまた奮起しましたね。八歳って、なかなかのハンデだしその年齢差だけでアウトにされる可能性だってあるでしょ。しかもライバルは美人。俺だったらポッキリ折れて、しばらくうなだれた後は違う人探しますけどね」

桧山家には大きな庭がある。
テニスコートが二面くらいとれそうな広さの庭には芝生が敷かれ、季節の木々や花たちが彩を添えている。

そこの花木の世話をしたり、季節ごとに花を植え替えたりするのが相葉くんの仕事だ。
二十歳という年齢ではあるもののセンスがよく雅弘おじ様に認められ庭についてはすべて任せられているという話だ。

平日午前中桧山家の庭先に来る相葉くんとのおしゃべりは、時間を持て余す私の楽しみとなっていた。

植え替えなどは私も手伝わせてもらえるので、九時をすぎると髪をひとつにまとめ軍手をはめていつも意気揚々と庭先に出ている。