「もう。明日、匡くんと一緒にくるって話だったじゃない。急に電話してくるからびっくりしたわ。お母さん、あと二時間もしたら仕事行かなきゃだし……まったく、今度からはもっと早く連絡入れるのよ?」

その日の午後、実家で私を迎え入れてくれた母が言う。
「ごめん」と謝りながら笑みをこぼし、久しぶりとなる実家の敷居をまたいだ。

麻里奈ちゃんと沢井さんが帰った後、すぐに滝さんにお願いして車を出してもらった。

外出禁止となっていても、さすがに行先が実家で目的が母と会うことなら、滝さんだって反対はしない。

しかも、ひとりで向かうわけではなく、運転手は滝さんだ。
迎えもお願いしてある。そのへんに買い物に行くよりも安全だろう。

それに……おそらく、私が勝手に出歩いたところで、匡さんは以前のようには怒らない。

『なにか理由があるなら聞くが』

あのときの匡さんの低く尖った声を思い出し、胸が締め付けられる。

『私は気にすることじゃないから理由は聞くな、でも匡さんの敷いたルールには黙って従えと……そういうことを言っていますか?』

私がそう聞いたとき、彼はいったいどんな顔をしていたのだろう。
うつむいて匡さんの表情をきちんと見ていなかった自分が今更情けなくなった。