あの傷を知っていて、触れられるのは、少なくとも今は私だけだと思って小さな優越感を抱いていたけれど、そんな話じゃなかった。 私は何も知らなかったんだ。匡さんの想いを、なにひとつ……。 それがどうしようもなく悲しくて、本心すら話してもらえていなかったことが情けなくて涙が浮かぶ。 「では、たしかにお渡ししましたから」 そう綺麗な笑みで告げる沢井さんに、頷くのが精いっぱいだった。