だからせめて理由を教えてくれたら、私もしっかり納得して従える……と思い、勇気を出したのだけれど。
匡さんは私をじっと見てから目を逸らした。
「別に、深い事情があるわけじゃない。美織は気にしなくていい」
なにも、私を好きになってほしいと無理を言ったわけじゃない。ただ、理由を教えて欲しいとお願いしただけだ。
そうじゃないと、匡さんを信じられなくなってしまうと前置きしたのに、怖いと言ったのに、私の気持ちと向き合う態度を見せてくれない彼に、静かに気持ちが沈んでいくのを感じた。
「私は気にすることじゃないから理由は聞くな、でも匡さんの敷いたルールには黙って従えと……そういうことを言っていますか?」
それはあまりに横暴だ。
今までだったら、匡さんだってそれをわかった上で言えない事情があるのだと考えたと思う。だから、仕方ないと。でも……もう、無理だ。
向けられた想いには応えたいと思ってきた。
匡さんの妻になれただけで幸せだから、なんでもいいから彼の役に立ちたいと手探りで探してきた。
でも。
もともと匡さんから私に向けられたものなんて何ひとつなかったのだ。
ずっと一緒にいたから……優しい時もあったから、その思い出に私がしがみついていただけで、今の匡さんは違う。
恋は盲目だと、自覚はしていたけれど……私はきっと、違う意味でも盲目すぎた。
昔の匡さんへの恋心からかかった魔法が、薄いガラスが割れるように解けていく。



