〝あ〟と口を開けている横顔が間抜けに見えないかな、と不安になりながらもクッキーを口にしようとした瞬間だった。
「……んっ」
肩に回った腕に抱き寄せられ、そのまま唇を奪われる。
驚いた私が身じろいだせいでオフィスチェアがわずかに軋んだ音を立てた。
入り込んできた舌が、私の舌に絡まると背中をぞくぞくした感覚がせり上がっていく。
コーヒーの香りが包む匡さんの自室。甘い雰囲気に流されるまま戸惑いながらもキスに応える。
いつもされるがままなので、私もたまには主導権をとらないとと思い、匡さんの唇を自分の唇で挟んで舐めてみたり、精一杯舌を伸ばし匡さんの舌に触れたりと思いつく限りを尽くす。
でも結局匡さんがしてくれるみたいに気持ちいいキスができなくて自分自身が情けなくなる。
ずっと匡さんを好きでいたのに、こういう方面には疎くて、実際、チュッというキス以上のことに興味を持ったこともなかった。
高二の赤い傘の女性目撃事件までは、どこか親愛にも似た幼い恋心で匡さんがただただ好きだったし、それ以降は大人っぽくならないとと、そればかりだった。



