匡さんの自室は物が少なく、書斎という言葉がぴったりだ。
木製の重厚感漂うテーブルに頭まで高さのあるオフィスチェア。三人掛けのソファ。
壁に埋め込まれている大容量の本棚には、経営だとかマネージメントだとかの他に、仕事で使う専門書などが収められている。
私が差し出したクッキーを見たまま黙ってしまった匡さんに慌てて笑顔を作る。
「あ、全然無理に食べて欲しいわけじゃないので大丈夫です。匡さんが甘い物が苦手なのは知ってますし。ただ、報告したかっただけというか。見てもらえたらそれで割と満足というか」
困らせてしまったと思い、クッキーの並んだお皿を引っ込めようとすると、匡さんは「いや。もらう」と、手を伸ばした。
この一カ月半、匡さんと生活を共にしているけれど、彼がデザートを口にすることは基本ない。
休日、お茶をするために立ち寄ったカフェなどでも、私がケーキを食べているのをコーヒーを飲みながら眺めているのがほとんどだ。
だから、クッキーは作ってはみたものの、きっと匡さんは口にしないだろうなと予想していた。
私だって、十年前ならいざ知らず〝せっかく作ったのに〟などという勝手な言い分を押し付けるつもりは毛頭ない。
それなのに、手作りクッキーを食べてくれている匡さんを前にポカンとしてしまっていると、「久しぶりだな」と話しかけられる。



