「どうかした?」
「その髪、昨日あの後切ったの? やっぱり失恋したってこと?」
そう切り出され、麻里奈ちゃんのしかめっ面の理由がわかり、同時にせっかく清々しかった気分がどこかに消えていった。
あのとき覗き見を切り上げた後、麻里奈ちゃんはすぐに帰ったから私が脱走して美容院に行ったことは知らない。
「そんなにバッサリ切るの、麻里奈だったら結構勇気がいる」
ぶすっとした横顔を見て、今までの顔は怒っていたわけではなく、気遣おうとしてくれていたのかとわかり頬が緩んだ。
あまり慣れていないからか、麻里奈ちゃんは気を遣ってくれる時は不機嫌のような顔になるらしい。
そういえば昨日も、覗き見をしていた時に私を見上げた顔はバツが悪そうに歪んでいたっけ。
「小さい頃から高校の途中まではずっとこの長さだったの。だから、そこまでの決断ではなかったかな。ただ、大人の女性になりたいと思って伸ばし始めたから、それを切っちゃうのは……途中で断念するみたいで、麻里奈ちゃんの言う通り、少しだけ勇気が必要だったかな」
一八〇度に設定したオーブンの中で、八種類のクッキーが焼かれているのを見ながら話す。少しだけ笑うと、麻里奈ちゃんが「昨日の女も髪長かったよね」と呟くように言った。



