赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました



でもあれは覗き見だし、ふたりはただ会話をしていただけだ。
それを、鬼の首をとったように責め立てるのは違う。かと言って、何でもない顔でさも偶然見たと言わんばかりに〝そういえば〟と聞くのも、上手に演技できる自信がない。

そもそも、私ほど匡さんとの関係が長い人はそういないはずだ。
なんて言っても、私が生まれた数日後からの付き合いなのだから。

そして、高校二年生まではもちろん、大人の女性として見てもらえるように少し距離をとらなきゃと意識してからも、匡さんは週一以上の頻度で顔を見にきてくれていた。

匡さんは決して口数が多いタイプではないけれど、それでも雑談として友人だったり尊敬する大学の教授だったりの名前は教えてくれた。

だから私は、結婚する前から〝庭師の相葉〟と〝使用人の滝〟という名前は匡さんがしてくれる話の中で知っていた。

〝偏食が目に余るけれどとても繊細な音で演奏するピアニストの宍戸〟さんも、〝相槌が適当すぎて軽薄な印象を与えるのが致命傷な弁護士の小出〟さんも、それ以外にも匡さんの周りの登場人物は何人も知っている。

それなのにあの女性について話題が出なかったのだから……きっと、紹介してくれる気はないのだ。

紹介する気がないのか……それとも、できないのか。

暗くなりかけた思考に気付いて、バッと顔を上げる。
うつむいていたら、どんどんマイナス思考になってしまう気がした。