赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました



触れるだけのキスをされ、私が「気を付けて」と言い、匡さんが「ああ」と返す。
これも毎朝のルーティンだ。

新婚の夫婦なら当たり前の〝いってらっしゃい〟のキスだけど、まさか匡さんがしてくれるタイプだとは思ってもみなかったので、最初はとても戸惑った。

でも、私にとっては嬉しい誤算だ。

形だけの夫婦でも、結婚できただけで幸せだと思ってはいても、こうして普通の夫婦がするようなことをされると、想われている気がして満たされる。

それが勘違いで錯覚でしかないのをわかっているなら、夢見るくらいは許されるだろう。

キスひとつで機嫌を直す自分の単純さに呆れつつも、ほこほこした気持ちのまま匡さんを見送り部屋に戻るため踵を返そうとして、玄関の壁に貼ってある大きな姿見に映る自分に気付く。

二重の目も、形の整った小さな鼻も薄い唇も、美人だと褒められる母から無事受け継いだため造形的には悪くないと思う。

匡さんに認められたい一心でお風呂でのフェイスマッサージやスキンケアは怠ったことはないため、肌もそれなり……だと思う。

けれど、八歳年上の匡さんの隣に立つにはまだまだだし、若干幼すぎる。社会人というより学生という方がしっくりくるのは、自分でもよくわかった。

現に、肝心の匡さんからは〝可愛い〟も〝綺麗〟も、その他、一般的な誉め言葉をもらったことはない。