「美桜ちゃんに似合うと思ったんだよね」

そうどこか嬉しそうに香音人は言い、華奢な美桜の首に冷たい金属の感触が伝わる。

「あれ?うまくつけられないな……」

時々、香音人の指が触れて美桜の心はびくりと跳ね上がる。異性からアクセサリーを貰うのもつけてもらうのも初めてで、美桜は複雑な思いで大人しくネックレスをつけられるのを待つ。

「よし、つけられた。すごく似合ってる。このネックレスにして正解だった!」

胸元で微かに揺れるネックレスを見て、香音人は微笑む。仮にも初デートでこのような高価なものを受け取ってしまい、美桜は少女漫画と違うと思いながらも、「ありがとうございます」とお礼を口にする。

お礼を言ったことがいけなかったのか、ネックレスを受け取ってしまったことがいけなかったのか、そもそも出会ったこと自体が元凶なのかはわからない。

だが、美桜は目の前で心の奥にドス黒いものを抱えている香音人に、これから心をゆっくりと侵食されることになる。それを美桜が知るのは、もう少し先の話だ。

美桜に聞こえない小さな声で、香音人は呟く。

「……やっと手に入れた……」