一人で音楽を聴いているときに誰かに会い、
 「何の音楽を聴いているの」
 と、尋ねられることがある。
 私はこういうとき、多くの場合は、
 「洋楽を聴いてるの」
 と答えることにしている。
 しかし、その時の私は洋楽なんてこれっぽっちも聴いていない。
 テクノだったり、クラシックだったり、歌謡曲だったり。
 勿論最近の洋楽─ポップスも聴くのだが、様々な種類の音楽に触れた結果、テクノ、クラシック、歌謡曲の三つの種類に落ち着いた。
 それでも私が洋楽を聴いていると答えるのは、それが他者にとって理解しやすい趣味であり、話のタネになるからである。
 どんな音楽を聴いているのかと尋ねて、自分が耳にもしたことのない人の名前を聞かされても、尋ねた方だけでなく、私の方まで気まずくなってしまうだろう。
 
 私は世間の中では音楽に近い方の家庭で育ってきたと思う。
 稀に幾つもの楽器を演奏できるような人が存在するが、私もその分類に当てはまるかもしれない。
 母はエレクトーン講師であった。
 エレクトーンとは、上鍵盤と下鍵盤にペダル鍵盤という三列の鍵盤が特徴的な電子オルガンで、私が生まれた時にはすでに家に置かれていた。
 母は講師の傍ら作曲などもしていたそうで、母の実家にはアップライトピアノと電子オルガンがあり、それからの数回の引っ越しでキーボードピアノやグランドピアノへとそれぞれの楽器の変遷があった。
 私は幼少の頃から母に訓練してもらっていたそうで、気がついた頃には絶対音感を持っていた。
 今思えば、楽器に囲まれた環境と絶対音感の獲得は必然的に私を音楽の世界へと(いざな)ったのかもしれない。