ある朝、学校に行くのに駅のホームで電車を待っていると、争うような大声が聞こえた。
 県庁所在地の鉄道駅とはいえ私は都会から田舎へ向かう電車に乗るので、ホームで電車の到着を待つ人は少なく、ホームの数も停車している電車も少ない(わび)しい駅である。
 「お客様、大変申し訳ありませんが、ソーリー」
 駅員が深々と頭を下げる相手は観光客で、韓国からいらっしゃったと思われるおばさま方が3名ほどいらっしゃった。
 韓国のバラエティ番組を見ているとよく目にするパンチパーマに大きなサンバイザーで原色や蛍光色のお洋服を着ていらっしゃって、とりわけ登山に使うような大きなリュックサックが目を引いた。
 おそらく駅員は彼女達に何かを尋ねられたのだろうが、外国語は話せないという様子で致し方なくただ頭を下げ続けているようだった。
 私は目にしてしまった以上いつまでも傍観するわけにもいかず、自分が乗る電車が到着するまで十分ほどあるのを見て、意を決してその現場へ歩いて行った。
 「あの、駅員さん。私韓国語喋れるので良かったら通訳しましょうか」
 駅員は、ハッとした顔で、
 「ぜひ、お願いします」
 と言った。
 やはり言葉が通じていなかったのである。
 それから私は、
 「ここからは私がお話をしますね」
 と韓国語で彼女達に伝えた。
 おばさま方も突然現れた高校生が母国語を喋り出したのでさぞ驚かれた様子であったが、彼女達が言うにはハウステンボスに行きたいのだがどの電車に乗れば良いのかを教えてほしいと駅員に聞いたところ、駅員は謝るばかりで教えてくれないということであった。