「いつも思うのですが、あなたさまは歌がほんとうにお上手ですね」

「え? ありがとうございます。どういう基準ですか?」

「あなたさまはビブラートがかけられるので……」

「えっ、歌うたいだからではなくてビブラートがかけられるからなんですか? ビブラートなんて、だれでもかけられると思いますけれど……?」

「私はかけられないのです」

「わたくし、ビブラートをかけようと意識したことがありませんでした。いつも勝手にかかっていて」

「それは歌がお上手な方の台詞です」

「ええ……? 歌まもりさまのなかでは、ビブラートがかけられたら、だれでも歌が上手いんですか?」

「はい。尊敬します」

「ええ……ピンポイントな尊敬すぎません……?」





「おや、珍しい鳴き声ですね」

「初めて聞きました。きれいな声ですねえ。朝の祝詞を一緒に歌いにきてくれたのかしら」

「朝の?」

「この音程、朝のお祈りの歌みたいじゃありません?」


一緒に口ずさむと、ようやく合点がいった顔で頷く。


「ああ、なるほど。確かにそうですね」

「ね。朝の祈りは、きっと、鳥たちが鳴くのを聞いてつくったんだわ」


しみじみと呟くと、控えめに噴き出された。


「あなたさまの耳はいつでも歌っているのですね。私は歌はだめなもので、さっぱり気づきませんでした」

「あら、わたくし、歌うたいですもの。いつでも歌っていなくては、この国が危なくなってしまいます」


つん、と背けた顔越しに、笑い声が落ちてくる。


「意地悪をおっしゃらないでください。褒めたつもりでした」

「ええ、ありがとうございます」

「歌がお好きなのですね」

「ええ、歌は好きです。……ありがたいお役目ですわ」