巫女が遠くを見つめるたび、花が揺れていた。


あと七年。二十五を迎えた巫女が、ただの村娘に戻り、花を売って暮らせるとは思えない。


どんな娘なのだろうと思っていた巫女候補は、どこにでもいる、平凡な見た目の娘だった。


自分のことをわたしと言い、巫女より花売りになりたいと夢見る幼い子どもだった。


巫女が癇癪持ちでなく、気難しそうでもなくてよかった、護衛はこなせそうだ、と胸を撫で下ろした矢先のできごとだった。


かわいそうに、と思った。失礼ながら、同情もした。


——そうか、この娘を、十年守るのか。この、ごく普通の娘を。


そんな憐みは、歌うたいの引き継ぎで初めて歌を聞いたとき、捨て去った。


おそろしく澄んだ、およそひとの声とは思えぬうつくしい音。

それでいて楽しげで、歌を好きだと聞けばわかるような。


巫女の歌声は、天井を高くつくった建物で捧げるのにふさわしい、反響してこそ生来のうつくしさが増す声音をしていた。


——そうか。そうか、この娘を、……十年。


巫女は、きちんと選ばれている。


この娘には、選ばれるだけの理由がある。神は、天上から、こちらを見下ろしていらっしゃる。


この娘が巫女である期間に、歌まもりとして巫女を守るお役目についたことを、誇らしく思ったのを覚えている。


娘は瞬く間に巫女になった。


ひと月で一人称をわたくしと変え、丁寧な口調を覚えて、滑らかな所作を身につけた。

一年後には、涼やかに前を見据え、うつくしく歌い、清浄な空気を身にまとう、ひとと神の繋ぎ手になった。


いまなら、ただの村娘が選ばれた理由がわかる。


今代の巫女は、清く親しみやすく、懸命な、純粋なこの娘でなければいけなかった。

どこまでもいじましい、この娘でなければいけなかった。


ひとは、巫女を通して神を見るのだ。