艶子の握りしめる拳はだんだん
キツくなっていく。
他の人の…紗羅や湊の目にもショックの感情が色濃く表れていた。


「約2年前、
歩が失踪したと考えられていたあの事件、「洋画丘青年失踪事件」については
ご存知でしょう。あの日にはもう、

歩は命を経っておりました」

「自殺です。休日の朝、6時ごろ。
タイヤ交換を手伝ってくれると言っていた
歩を起こしに私は部屋に入っていきました。

が、そこにいたのは歩の死体だけ。

テスト勉強のために買い替えた椅子を使い、
DIYで使うと買った縄で、
首を吊っていました」

「机の上には遺書が残されておりました。
友人用、家族用。そして自殺に至った経緯を書いたものです。

私はすぐに自殺について書かれた遺書に
手を伸ばしました。

救急車を呼ぼうとも思いましたが、
いつもの澄んだ目が真っ黒になっているのをみて、嗚呼死んでしまったと確信しまして。

呼んでも一緒だと。もう遅いと、
心の中で引き止めてしまったのです」