瞬間、
倒れ込んでいたふりをしていたであろう湊が相手に蹴りを入れ、
共犯者の手からはナイフはこぼれ落ちる。

実はすぐに共犯者に覆い被さり退路を塞ぐ。

真っ黒のマスクにボロボロになった髪の毛がはっきりとよく見えた。


紗羅の腹部からは
最初の怪我の何倍もの血が吹き出している。

急所は避けたらしいが、すぐ出血多量で
死ぬだろう。...そんなことはさせない。

私はナイフを固定し渡の縄を包丁でちぎり、きつく巻きつけた。

湊は脂汗をかきながらも保健で習ったように動脈を指で抑え止血する。

紗羅の呼吸は少しずつ落ち着いてきたとき。私は遥と食満に巻きついた縄と、
渡の首に巻かれた長いロープを切った。

しかし全員、恐怖と焦りで喉が動かない。
足を怪我して立ち上がれない人ばかりだ。

一度深呼吸をした実は組み敷いた共犯者に
こう問いかけた。


「おい、スマホはどこにあるんだ?」


共犯者は狂ったように「ふふふふふ」と笑うばかり。

すると共犯者の手はゆっくりズボンの
ポケットに伸びていき―


『実、危ない!!』


私の声で振り向いた実、
ばっと共犯者から離れても、遅かった。

彼の長ズボンはどんどん血で染まっていく。

―カッターだ。
新品であろうそのカッターは天井の光で
美しく煌めいている。

油断した、油断した。

私は実をすぐ後ろに隠し
物を投げつけるものの共犯者は狼狽える様子すらなく立ち上がれない渡の手を引き、

「首元」にカッターを当てた。