一番前で押していた遥が主にくらったが、
影で隠れていた食満は左目だけで済んだ。

私と遥が座り込んでいる間に食満は艶子の
手を掴み逃がさないように、
上体をずんずん器具置き場の中に入れる。

女性は諦めたのか
艶子を置いてたったと逃げ出してしまった。

まだ追いかけられる、そう思い、
裾で目を拭いながら立ち上がったのだが…
その瞬間、すぐ近くから聞こえた
艶子の金切声に怯まずにはいられなかった。


「追いかけないで!!
しょうがないの、これが、1番なの。

私に触らないで、抵抗しないで!!」


支離滅裂な言葉、ぼやけた視界から見える
表情はいつもの温もりのある
冷静なものとは違う、

まるで母親が目の前で
我が子が殺されそうな、そんな表情。

もう、艶子が共犯者で確定だろう。

でも、友人だから、嗚呼。

今すぐにその頬から流れる涙を拭い、
抱きしめることができたなら。


「環、危ない!!」


カランと鉄パイプが持ち上げられる音。
そしてその鉄パイプは遥のすぐ横を通り―





暗転。