「どこに行くの?」

 咲也くんには、ハッキリと目的地があるみたいで、迷いなく歩いていく。

 行き先をたずねても、

「イイところだよ」

 と、いたずらっぽい笑みを浮かべるだけの咲也くん。

 商店街の通りからはずれて、細い路地をぬけていく。

 不安はあるけれど、素敵なことが待っている予感がして、手をふりほどく気にはなれない。

 咲也くんの手はひんやりと冷たくて、この暑さのなかでは心地よかった。

「着いたよ」

 ようやく、咲也くんが立ちどまった。

「ここ……?」

 静かな住宅街のなか、独特の存在感をはなっている洋服屋さんだった。

 ヨーロッパ風の店がまえで、壁はクリーム色にぬられている。白い木製のドアはアンティーク調で、かわいらしい。

 レースのカーテンのかかった大きな窓から、店内がちょっぴり見えた。

「うん、ここに一千花センパイをつれてきたかったんだ」

 ようやく手が離れると、咲也くんはドアをあけて、なかにずんずんと入っていく。

 ドアの横に、「semer」と書かれた看板がかかっている。

 ここ、女性向けのセレクトショップみたいだよ?

 とまどいつつ、わたしも店内に足をふみ入れる。

「わあ……」

 思わず声がもれた。

 洋服、アクセサリー、ハンドバッグなどが、空間と一体となって陳列されている。

 ここに、こんな素敵なお店があったなんて知らなかった。