「いいの、いいの。行こ」

 わたしは、里桜の腕を引っぱろうとした。

 すると――。

「わりぃ。このあと予定あるんだよ。今日は、手伝ってくれてサンキューな。お疲れ!」

 桃井さんの誘いを断ってる咲也くんの声が聞こえる。

「愛葉センパイ」

 わたしを呼びながら、かけよってくる咲也くん。


「おれとデートしてください」


 あまりにストレートな誘いに、ぽかーんとしてしまった。

「え? え? え?」

 返事もできずに、うろたえるばかり。

「行ってきなよ、一千花!」

 にんまりして、わたしの肩をたたく里桜。

「望月センパイ、ありがとうございます。愛葉センパイをお借りします」

 咲也くんがほほ笑むと、里桜は「どうぞ、どうぞ」と言いながら、わたしの背中をぐいぐいと押した。

「ちょ、ちょっと、里桜!」

 抵抗むなしく、咲也くんの正面に押しだされてしまった。

 咲也くんは、わたしの顔をのぞきこみ、

「今日は、おれにつきあってもらいますよ」

 と言うと、わたしの手をとった。

 わあっ! みんなのまえで、手をにぎっちゃったよ!

 咲也くんの大きな手が、わたしの小さな手をつつみこんでいて――。

「乙黒くん! それってどういうこと!?」

 わわっ、桃井さんが、目をつりあげて怒ってる!

「さっき、つきあってる人いないって言ったじゃん!」
「おれ、ウソはついてないよ。つきあってる人はいない」

 咲也くんは、まったく動じてない。