「乙黒くん?」


 声がして、ふり向くと、かわいらしい女の子が立っていた。

 キャップをかぶり、派手なロゴの入ったTシャツに、デニムのGジャン。下は、淡いイエローのショートパンツに、真っ赤なスニーカーを合わせている。

 いわゆるスポーツカジュアルがキマっている、オシャレな女の子。

「ああ、桃井さんか」

 咲也くんの知り合いみたい。

「ちょっといい?」

 桃井さんと呼ばれた女の子は、ぐいっと咲也くんの腕を引っぱり、少しはなれたところへ連れていく。

 一瞬、桃井さんと目が合って、不敵な感じでにやりとされたような……。

 そのまま、ふたりは親しげに会話をはじめた。

 桃井さんが積極的に話していて、咲也くんも時折、笑みを見せている。


 ――なにを話しているんだろう?


 気になっている自分に気づき、ハッとする。

 わたしには関係ないことだよ。

「一千花、気になるんじゃない?」

 里桜が近づいてきて、こそっと話しかけてきた。

「べ、べつに……」
「あの子、たしか一年の、陸上部の子だね」
「ふーん」
「気になってるくせに」

 ひじでつついてくる里桜。

「だから関係ないってば」

 こめかみがピクピクしてきた。

 バックドロップしようかな。

「――でもさ、安心したよ」

 空を見あげ、日差しに目を細めながら里桜が言う。