「もちろん、聞く耳をもたなかった。すべての誘惑をつっぱねた。当然だろ? おれは、乙黒咲也なんだから。一千花センパイとの約束を忘れたことはないよ」
「咲也くん……」

 やっぱり、咲也くんはフツーの男の子に戻ってるよ!

 魔眼を持っているとしても……。

 すると、咲也くんは眉間にしわをよせて、

「だけど、気がかりなことがあってね」

 と、ぽつりと言った。

「気がかりなこと……?」

「開花町に戻ってきて、おどろいたのは、魔物の多さだ。まあ、戦いの舞台になった町だし、仕方ないけど……。もちろん、数が多かろうと、人間には大して害がない。ただ……」

 言いにくそうに、口をつぐむ咲也くん。

「ただ……? 言ってよ、気になるじゃない!」

 わたしがうながすと、咲也くんは言葉をつづけた。

「入学式の日――中庭の花壇で一千花センパイと会ったとき、すぐにアイカだって気づいた。同時に、見てしまったんだ。一千花センパイは、魔物たちに呪いにかけられてる」
「ええっ!? 呪いに!?」

 呪いって、どういうことなの――――っ!

 頭をかかえて、ぼうぜんとするわたし。

「魔界軍を壊滅(かいめつ)させたアイカは、魔物にとっては憎むべき相手だからね。ずっと一千花センパイを呪っていやがったんだろう」

 言葉を切って、ブルームスに視線をうつす咲也くん。

「君は気づいていたはずだろ、ブルームス?」