「あ……いい香りだね……」

 動きを止めた咲也くんが、鼻をくんくんさせる。

 たしかに、甘いリンゴのような匂いがただよっている。

「カモミールの香りだね。香水やシャンプーにも使われたりするんだよ」

 わたしの説明に、咲也くんはうなずいて、

「たしか、リラックス効果のあるハーブの一種だったね」

 と、わたしに向きなおる。

「一千花センパイは逆に、元気の出る香りがする。ローズマリーのような……」
「ええっ!? 当たり! ローズマリーのシャンプー使ってるから……」

 びっくりだよ! 言い当てられちゃった!

「匂い、キツイかな?」

 心配になって、髪をさわるわたし。

 咲也くんは、首を横にふった。

「いや、だいじょうぶだよ。よほどそばに行かなきゃ、気づかないよ。おれは何度も一千花センパイに近づいてるから……」
「あっ――」

 理科室で助けられたり、壁ドンされたときの記憶がよみがえる。

 とたんに、かーっと頬が熱くなってきた。

「きれいな髪だね」

 いつの間にか、咲也くんと向かいあわせになってる。

 心臓がバクバクしてきた。

「さわってもいい?」

 咲也くんは、やわらかくほほ笑んで、小首をかしげてくる。

 そんなのズルいよ。「うん」って、うなずくしかないもん。