「スベっちゃって、助けてもらっただけなんですから」
「それだけじゃないわよ。『大切な人宣言』されたらしいじゃない?」

 ああ、やっぱり、小百合センパイの耳にも入っちゃってるんだ。

 里桜に教えてもらったけど、どうやら、わたしと咲也くんが「ただならぬ関係」にある、とのうわさが校内に流れているみたいで。

 うわさの発生源は、椿センパイだよね。あの人以外には考えられない。

「それは……」

 事情を説明しようとしたら。

「遅くなりました」

 入ってきたのは、咲也くん!

 わたしと目が合うと、なんの迷いもなく、わたしのすぐとなりのイスに腰をおろした。

 走ってきたらしい咲也くんは、肩で息をしている。

「今日、掃除当番だったんですよ」

 ニコッとほほ笑みかけられ、このまえの壁ドンを思いだして、ドキッとした。

「あっ、まだはじまってないから、だいじょうぶだよ」

 動揺をさとられまいと、フツーをよそおって言ったけど、顔は引きつっているかもしれない。

「乙黒くん。あなたのうわさをしてたのよ」

 にんまりして告げる小百合センパイ。

 ああああああっ! 余計なことを言わないでっ!

「おれの……?」

 咲也くんが小首をかしげると、小百合センパイは、うれしそうにうなずいた。

「あなた、愛葉さんのことを大切な……ふがっ! にゃにを!」

 わたしは自然と、小百合センパイの口をふさいでいた。