「よっ! 熱いね、ご両人!」

 うしろのほうから、からかうような声が飛んできて、わたしはハッと我に返った。

 咲也くんが体を起こしてくれたので、あらためてお礼を言う。

 からかってきたのは、蓮くんの友だちだ。まだいたんだ?

「きゃあ! 大胆!」

 新入生の女の子たちも大さわぎしている。

 ああっ! みんなが見ているまえで、わたしたちは――。

 もう、すべてが遅かった。

 蓮くんの演武が終わったとき以上に、どよめきや歓声が起こっていたんだ。

 戸口に立っていた蓮くんにも、見られちゃってたみたい。

「あー、一千花わりぃ。そこ、おれの汗が飛びちってたもんな」

 あやまりながらも、ニヤニヤしている蓮くん。「これはイイものが見れた。あとでからかってやろう」って、顔に書いてある。

 てか、すべったのは、蓮くんの汗のせいかっ!

「王子さまとお姫さまみたいだったわ……。サイコーに胸キュンな、王道のシチュエーションよ!」

 目をハートマークにして興奮しているのは、小百合センパイだ。

「おーい、門倉。見学会やるんだろ?」

 いつまでも動かない小百合センパイに、蓮くんが近づく。

 小百合センパイの顔のまえに手をかざして、上下にふってみるけれど、反応なし!

「ダメだ、完全に妄想スイッチ入ってるわ」

 あきれて肩をすくめる蓮くん。

 わたしも、もう放心状態で。

 そばにいる咲也くんのほうを、まともに見られない。

 頭がぼーっとしているし、心臓の鼓動も、うるさいくらいに、ドキドキと暴れまわっていたんだ。

 そのあとの、見学会のことは、ほとんど記憶にない。