キュッ!

 上履きの底と、床がこすれる音。

 床がぬれていたんだと思うの。

 それで、わたしはバランスを崩してしまったらしい。

 そこからは、スローモーションのよう。

 おどろいている小百合センパイの顔から、天井へと視線がゆっくり移動する。

 これは……つまり……後ろむきに倒れるパターンだ!

 背中をぶつけちゃうかな? 頭を打ったらキケンだよね?

 ていうか! みんなが見ているまえで派手に転ぶなんて、はずかしすぎるっ!

 そんなことを考えている間にも、どんどん「そのとき」は近づいて――。

 だけど、わたしの背中も、頭も、床にぶつかることはなかったんだ。

 重力に逆らうような浮遊感。

 そして、しっかりと体が固定されている安心感。

「あっぶねー。ぎりぎりセーフですよ」

 ホッとしたようにわたしの顔をのぞきこんでいるのは――咲也くん!

「あっ、えっ……?」

 背中を支えてくれている腕が、咲也くんのものだと気づくのに数秒かかった。

 うしろに倒れたわたしを、咲也くんが間一髪で助けてくれたんだ!

「意外とドジですね、愛葉センパイは」

 わたしを見下ろし、ニコッとする咲也くんのきれいな顔が至近距離にあった。

 また、甘いアーモンドのような香り。

「あっ、ありがとう。助けてくれて……」

 わたしは、やっとのことでお礼を言った。

「いえ……」

 咲也くんと見つめあうわたし。