「咲也くん。アイカの力は、人を傷つけるためのものじゃないよ」

 思わず腹が立った。

 ヤケになる気持ちもわかるけれど、そんな言葉は聞きたくなかった。

「……そうだったね」

 ため息まじりに声をもらすと、咲也くんは言葉をつづけた。

「ならば……頼みがあるんだ」
「なに? 言ってみて」

 咲也くんは、わたしを見つめた。

 その瞳に、悲しい色がにじんでいる。

「アイカの力で、ボクの記憶を消してほしい」
「そんなこと!」
「おねがいだ。アイカならできるはず。犯した罪を後悔しながら生きるには、これから先、あまりに長すぎるよ……。傷つけるのが無理なら、せめて……」

 咲也くんの切実なねがいに、胸がしめつけられる。

「ごめん。それはできないよ」
「どうして……だよ……」

 咲也くんの顔がゆがむ。

「えっと……魔力をぜんぶ使いきっちゃったんだよね」

 わたしは、魔法のステッキを咲也くんに見せた。

 花の女神さまから託された、大切なもの。

 光の魔石が埋めこまれていて、虹色にかがやき、わたしを魔法少女に変身させてくれた。

 魔石にこめられた魔力を少しずつ使いながら、魔法少女アイカとして、魔神リュウト率いる魔界軍と戦ってきたんだ。

 だけど――。

 リュウトを倒すときの必殺技で、すべての魔力を使いきってしまった。魔石にはヒビが入り、ステッキの色はくすんでしまっている。