モヤモヤした想いをふりきるように、わたしは軽く頭をふった。

「咲也くん……なの?」

 こくりとうなずく咲也くん。

「親父の転勤が終わって、またこっちに帰ってきたんだ」

 わたしは笑顔をつくって、明るく言った。

「ひさしぶり! ぜんぜん気づかなかったよ! 背も伸びてるし、オトコマエになっちゃって!」
「一千花センパイはきれいになったよ」

 ドキッ。

 時間が止まったかのよう。

 男の子にそんなこと、言われたことがない。

 顔全体が熱くなってきた。耳まで真っ赤になってるかもっ!

「や、やだなー。そんなお世辞まで覚えちゃったの?」
「おれ、お世辞なんか言わないよ。一千花センパイはきれいだ。かがやいてるよ。フツーの女の子として、幸せな日常を生きてきたんだろうなって……」

 さびしげに笑う咲也くん。

「咲也くん……?」
「おれはフツーには戻れなかったよ。戻れるわけがない」
「どういう……こと?」

 胸がざわざわしてきて、思わず眉をひそめた。

「たとえ魔力を失ったとしても、おれは魔神リュウガの息子なんだ。闇の人間なんだよ。それは変わらない。かがやいてる一千花センパイは、おれにはまぶしすぎる」
「そんなこと言わないでよ。咲也くんは、もうフツーの……」
「一千花センパイを闇で染めたくなっちゃうな」

 ニヤッと、挑発的な眼差しを向ける咲也くん。