「なあ、一千花。おれ……もしかして、おまえに(こく)ったか?」

 蓮くんが、頬をかきながらたずねる。

「……うん」

 うなずくと、蓮くんは苦笑いした。

「そっか。まっ、忘れてくれや」

 咲也くんに向きなおった蓮くんは、拳を突きだした。

「一千花のこと、泣かせんじゃねーぞ」

 咲也くんは、フッとほほ笑んで、拳をあわせる。

「おれ、一千花センパイを幸せにするために存在してるんです」
「生意気だよ、おまえは」

 男の子同士で笑いあうのを、わたしはきょとんとして見ていた。

 ともかく……蓮くんは、闇の魔石にあやつられたときの記憶はないみたいで、安心したよ。


 そして、やさしい風が吹く放課後――。

 わたしと咲也くんは、ジャーマンアイリスを見つめている。

「ねえ、魔女って、どんな人……?」
「どんなって言われても……」

 わたしの問いかけに、目を泳がせる咲也くん。

 あやしいっ!

「美人なんでしょー?」

 横から咲也くんの顔をのぞきこみ、じとーっと見つめる。

「まあ……美人だったかな」
「ふーん」

 ぷいっと目をそらすわたし。

「ヤッパ、一千花センパイのヤキモチかわいいな」

 ふふっと笑う咲也くん。

 わたしが、ぷく~っと頬をふくらませると。

「魔法の化粧水つかってるから、若くて美人だけど、四百年も前から生きてる人だよ? ホントは、おばあさんだから」

 咲也くんに言われて、「ええっ、そうなの!?」ってびっくりした。