駅前のバス乗り場に戻ってきたのは、夕方五時過ぎ。

 見なれているはずの駅前の風景が、なぜかそれまでとちがって見えた。

 それは――咲也くんとデートする前と、デートしたあとでは、わたしのなかでなにかが変わったんだと思う。

 ホントにわたし、恋しちゃってるんだ。

 恋をしたら、なんでもない風景でも色づいて見えるの?

 それはとっても素敵なこと。

「どうだった? 楽しかった?」

 芽依さんのお店「semer」に戻ると、すぐにたずねられて、わたしは笑顔で答えた。

「はい! すっごく!」

 魔物にねらわれたりしたけれど、そんなことが吹き飛ぶくらい、胸がキュンキュンして……。

 魔物や、おでこにキスのことは伏せて、デートの内容を報告したら、芽依さんはうれしそうだった。

 そして、ハンドバッグを返して、「ワンピースはクリーニングしてお返ししますね」と言って、お礼を伝える。

 すると――。

「いいよ、一千花ちゃんにあげるよ」

 さらりとした調子で、芽依さんが言ったんだ。

 ええっ!? こんな高価なものを!?

「ちょ、ちょっと待ってください! それはダメですよ!」

 あわてて断わろうとすると、芽依さんはクスッとして、

「あたしより一千花ちゃんのほうが似あってるもの。ちょっとサイズ大きいけど、すぐに背も伸びて、ぴったりになるわよ。なお、返品は受けつけませーん」

 と、一歩もゆずる気配がない。